私たちの研究室では,プラズマを中心とした電磁界応答流体の多面的特性(電気・流体・熱・化学・輻射など)の高度理解とそのモデリングを目的とした基礎研究を進めています。そして,その成果を次世代の環境低負荷型電力・エネルギー技術や革新的な航空宇宙推進技術の創出に繋げることを目指しています。以下では,
研究室で現在主に研究対象としている電磁界応答流体関連技術を簡単に紹介します。
航空宇宙工学分野
惑星大気突入時の極超音速プラズマ流れ・熱の能動的制御技術
宇宙輸送機・探査機が地球に帰還,または他の大気惑星に突入する際,極超音速飛行に伴う衝撃波が機体の前方に発生します。衝撃波の背後には数万度を超す大気プラズマ流れが生じます。従来の宇宙輸送機は,この高温のプラズマ流れから機体を守るために,耐熱性の高い材料やアブレーション(物質の相変化)材料を用いた受動的な熱防御技術を用いてきました。しかしながら,これらの受動的な熱防御技術では事前予測の不確実性に臨機応変に対応することが難しく,安全係数を高めた設計が余儀なくなされ,また再使用が難しく,大きなコストがかかっています。我々の研究室では,惑星大気突入プラズマ流れの事前予測性能を高めるためのプラズマ流体解析の高度化,地上で熱環境試験を行うための高エンタルピープラズマ風洞の数値シミュレータの開発,さらには,電磁力を利用した再使用性の高い革新的な能動的な熱防御技術(MHD Heat Shield/MHD FLow Control)の有効性の数値予測とその効果の最大化を目指した研究を進めています。

誘導結合型超音速高周波プラズマの電気推進応用技術
人工衛星の姿勢制御や軌道保持に用いられる電熱加速型電気推進機の長寿命化を目指し,誘導結合型プラズマ(ICP)を応用したICPスラスタの高性能化研究を進めています。ICP スラスタでは,ノズルの外部に巻き付けたコイルに10 MHz程度の高周波電流を流すことで,推進剤をプラズマ状態にして加熱します。その後,ラバルノズルで気体力学的に推進剤を加速・噴出し,推力を生み出します。ICP スラスタはプラズマと電極(誘導コイル)が非接触のため,直流アーク方式の推進機(Arcjet スラスタ)の長寿命化を阻んでいる電流集中による電極損耗の問題が生じません。また,反応性気体を用いることによる電極腐食の問題もなく,酸素や二酸化炭素を推進剤として用いることも可能なため,ICP スラスタは,地球や火星の超低軌道における大気吸込型電気推進機としての利用も期待されています。一方で,これまでに我々の研究室で試作したICP スラスタは,Arcjet スラスタ に比べてエネルギー変換効率が著しく低く,実用化にはその改善が必要不可欠です。そこで,私たちはこのエネルギー変換効率を高めるための研究を実験ならびに電磁流体シミュレーションから進めています。

プラズマアクチュエータによる翼周りの気流制御
機械的駆動部を持たず電気的に気体の流れを制御することができるDBD(誘電体バリア放電)プラズマアクチュエータは航空機や風力発電の翼周りの境界層・剥離制御などへの応用が考えられています。私たちの研究室では, 現在,DBDプラズマアクチュエータの高性能化を目差した基礎研究を進めています。

電力・エネルギー工学分野
プラズマ利用MHD発電技術
持続可能なエネルギー社会の構築に向け,再生可能エネルギー電源が電力ネットワークに大量に導入されることが予想されます。その次世代型電力ネットワークにおいて,現在と同じように高品質の電力を安定に供給するためには,再エネ電源の出力変動を補償する調整用大規模電源が必要であると私たちは考えています。また,当面はその役割を火力発電が補うことが予想されます。この出力調整用の大規模火力電源として,異次元の高速・大規模出力調整能力を潜在的に持つプラズマ利用MHD発電機の実用化が期待されています。私たちの研究室では,同発電機内の超音速プラズマ流体の電磁流体現象の高度理解とそれを踏まえた実用化への道筋を見出すための基礎研究を進めています。また,MHD発電機は機動性能が高く,また,出力密度・比出力も高いこといから,次世代型の極超音速航空機や宇宙輸送機の電源としての可能性を秘めており,私たちの研究室ではMHD発電機の航空宇宙分野への応用も想定した研究を進めています。

大電流アークプラズマ消弧技術(ガス遮断器)
ガス遮断器(Gas Circuit Breakers,GCBs)は,電力系統に生じた短絡や地絡等の事故時の故障電流を遮断し,電力系統を保護するために必要不可欠な電力機器の一つです.発電所や変電所など,私たちの住んでいる周りにもガス遮断器はいたるところに設置されています。電流遮断指令を受けたガス遮断器の内部では,ノズル内の一対の電極が機械的に切り離され,電極間に数万度のアークプラズマが生じます。このアークに消弧ガスを吹き付けることでアークの温度を下げて消弧し,電流を遮断します。従来のガス遮断器は,その極めて高い絶縁性能・消弧性能を背景に六フッ化硫黄ガス(SF6)が消弧ガスとして広く用いられています。しかし,SF6ガスの地球温暖化係数は極めて高いため,代替ガスを利用したSF6ガスフリーのGCBの開発・普及が強く求められています。私たちの研究室では,ガス遮断器内で生じる複雑な電磁プラズマ流体現象※1を詳細に扱うことができる数値シミュレーション技術を構築し,その技術を活用して低環境負荷代替ガス遮断器の開発に資する基礎研究を進めています。

※1 電極移動を伴ったアークプラズマ現象,衝撃波や境界層等に関わる圧縮性粘性流体現象,乱流現象,電磁場現象,温度・圧力依存の熱力学的特性・輸送特性,輻射輸送特性,ノズルや電極のアブレーション現象など
機能性材料コーティング用プラズマスプレー技術
ガスタービン翼の遮熱コーティングに代表されるプラズマスプレーは,機械材料に耐久性や機能性を付与する表面改質技術として広く用いられています。また近年では,固体酸化物形燃料電池SOFCの電極・電解質膜生成技術としてもその活用が検討されています。コーティング皮膜の特性は,プラズマトーチ内の動的アーク挙動やプラズマ-溶射粒子間の相互作用に強く依存します。私たちの研究室では,溶射皮膜の再現性・制御性・機能性の向上を目指し,動的アーク挙動の物理機構やプラズマ-溶射粒子間の相互作用の解明に取り組んでいます。

MHD現象を応用した回転機械エネルギー回生技術
国内外で風力発電の導入が拡大しています。共同研究者であり電磁界応答流体・機能性流体分野でご活躍の東北大学流体科学研究所の高奈秀匡先生は,風力発電の余剰風力エネルギーを高度に利用(エネルギー回生利用)することが可能な液体金属を用いた同軸二重円筒MHD(電磁流体)エネルギー変換器を提案し,モデル実験機を用いてそのアイデアの実証に成功しています。 しかし,装置内の流体場・電磁場を観測することが難しく,装置内の電磁流体現象(MHD乱流現象,渦電流など)の理解が不十分な状況にあります。 私たちの研究室では,東北大の高奈先生やMHD乱流解析で世界的に著名な慶應義塾大学小林先生との共同研究により,同軸二重円筒内MHDエネルギー変換器内の電磁流体現象について理論解析・電磁流体シミュレーションから理解を深め,そこで得られた知見を同変換器の高性能化に繋げることを目指しています。
