私たちの研究室では,プラズマを中心とした電磁界応答流体の多面的特性(電気・流体・熱・化学・輻射など)の高度理解とそのモデリングを目的とした基礎研究を進めています。そして,その成果を次世代の環境低負荷型電力・エネルギー技術や革新的な航空宇宙推進技術の創出に繋げることを目指しています。以下では,研究室で現在主に研究対象としている電磁界応答流体関連技術を簡単に紹介します。


電力・エネルギー工学分野


非平衡プラズマ利用電磁流体(MHD)発電

持続可能なエネルギー社会の構築に向け,電力ネットワークでの再生可能エネルギー由来の電源(再エネ電源)の利用が増加していくことが予想されます。その次世代型電力ネットワークにおいて,現在と同じように高品質の電力を安定的に供給するためには,再エネ電源の出力変動を補償する調整用大規模電源が必要であると考えられています。この出力調整用の大規模電源として,異次元の高速出力調整能力を潜在的に持つ非平衡希ガスプラズマ利用MHD発電機を本研究室では提案しています。同発電機の実用化に向けた方策を見出すべく,電磁流体シミュレーション・小型発電機を用いた基礎実験を通して,発電機内の超音速プラズマ流体の電磁流体現象の高度理解を進めています。


プラズマを利用した材料を溶かさないセラミック製膜技術

プラズマを利用した新しいセラミック製膜技術の一つとして,プラズマ援用エアロゾルデポジション(PAD)法が提案されています。固体のセラミックス微粒子を常温のまま真空中で吹き付けて製膜するエアロゾルデポジション(AD)法をプラズマで援用することで,製膜速度が最大で十倍程度増加することや,複雑な形状を持つ表面への製膜が可能になることが知られていますが,そのメカニズムはまだ解明されていません。PAD法の製膜では,微粒子の衝突速度やプラズマ援用による作用が重要と考えられます。そこで私たちの研究室では,PAD法の製膜メカニズムを明らかにすることを目的として,プラズマ特性や材料微粒子挙動,材料表面とプラズマとの相互作用の解明に取り組んでいます。


機能性材料コーティング用プラズマスプレー技術

ガスタービン翼の遮熱コーティングに代表されるプラズマスプレーは,機械材料に耐久性や機能性を付与する表面処理技術として広く用いられています。また近年では,固体酸化物形燃料電池SOFCの電極・電解質膜生成技術としてもその活用が検討されています。コーティング皮膜の特性は,プラズマトーチ内の動的アーク挙動やプラズマ-溶射粒子間の相互作用に強く依存します。私たちの研究室では,溶射皮膜の再現性・制御性・機能性の向上を目指し,動的アーク挙動の物理機構やプラズマ-溶射粒子間の相互作用の解明に取り組んでいます。


低環境負荷大電流遮断技術の開発に資する高度アークプラズマ解析技術の構築

ガス遮断器(Gas Circuit Breakers,GCBs)は,電力系統に生じた短絡や地絡等の事故時の故障電流を遮断し,電力系統を保護するために必要不可欠な電力機器の一つです。発電所や変電所など,私たちの住んでいる周りにもガス遮断器はいたるところに設置されています。電流遮断指令を受けたガス遮断器の内部では,ノズル内の一対の電極が機械的に切り離されます。このとき,電極間に数万度のアークプラズマが生じ、導通状態が維持されてしまいます。ガス遮断器は,このアークプラズマを消弧ガスを吹き付けることで消滅させ,電流を遮断します。現行のガス遮断器では,その極めて高い絶縁性能・消弧性能を背景に六フッ化硫黄ガス(SF6)が消弧ガスとして広く用いられています。しかし,SF6ガスの地球温暖化係数は極めて高いため,代替ガスを利用したSF6ガスを用いないガス遮断器の開発・普及が強く求められています。私たちの研究室では,ガス遮断器内で生じる複雑な電磁プラズマ流体現象※1を詳細に扱うことができる数値シミュレーション技術を構築し,その技術を活用して低環境負荷代替ガス遮断器の開発に資する基礎研究を進めています。

※1 電極移動を伴ったアークプラズマ現象,衝撃波や境界層等に関わる圧縮性粘性流体現象,乱流現象,電磁場現象,温度・圧力依存の熱力学的特性・輸送特性,輻射輸送特性,ノズルや電極のアブレーション現象など


MHD現象を応用したエネルギー回生技術

国内外で風力発電の導入が拡大しています。共同研究者であり電磁界応答流体・機能性流体分野でご活躍の高奈秀匡教授(東北大学流体科学研究所)は,風力発電の余剰風力エネルギーを高度に利用(エネルギー回生利用)することが可能な液体金属を用いた同軸二重円筒型MHDエネルギー変換装置を提案し,モデル実験機を用いてそのアイデアの実証に成功されました。 しかし,装置内の流体場・電磁場を観測することが難しく,装置内の電磁流体現象(MHD乱流現象,渦電流など)の理解が不十分な状況にあります。 私たちの研究室では,東北大の高奈先生やMHD乱流解析で世界的に著名な小林先生(慶應義塾大学)との共同研究により,電磁流体シミュレーションから,これまで未解明だった同装置内の電磁流体挙動とその性能との関係について解明することを目指しています。


航空宇宙工学分野


プラズマアクチュエータによる翼周りの気流制御

誘電体バリア放電は燃焼・化学反応の促進や医療分野など幅広い分野に応用されています。その放電を流れ制御に応用したものがDielectric Barrier Dischargeプラズマアクチュエータ(DBD-PA)です。非対称に配置されたシート状電極間に高電圧を印加するとジェットが発生します。薄くて軽量という利点を生かし,流れを制御したい箇所にDBD-PAを貼り付け,そのジェットにより流れを制御することができます。しかし,DBD-PAの工学応用のためには,駆動効率の改善,誘起流速の増大,駆動電源への要求の緩和等,様々な課題を解決する必要があります.また,DBD-PAの周りで起こる複雑な放電現象と流れの相互作用に関しても,不明な点が数多くあります.現在,私たちの研究室では,DBD-PAの性能の改善に向けた研究とDBD-PAを用いた翼周り流れの制御に関する研究の二つに着手しており,プラズマ現象の視点から放電と流れの相互作用とメカニズムの解明を目指した実験と数値解析に取り組んでいます。


惑星大気突入時の極超音速プラズマ流れ・熱の能動的制御技術

宇宙輸送機は大気圏突入時に過酷な空力加熱に晒されます。これに対抗する手法として、アブレーション冷却が広く使用されていますが、再利用が難しくコストがかかります。そこで注目されているのがMHD Flow Controlです。プラズマ流れと印加磁場の相互作用により、輸送機への熱流入を低減させるこの手法は、再利用性が高いと期待されています。我々は数値計算を駆使し、MHD Flow Controlの基礎的な特性に対するアプローチを進めています。再利用可能な熱防御技術の開発により、宇宙輸送機の設計に新たな展望が広がることが期待されています。


誘導結合型超音速高周波プラズマの電気推進応用技術

人工衛星の姿勢制御や軌道保持に用いられる電熱型電気推進機は,電極と高温プラズマの接触による電極の損耗が発生し,推進機の長寿命化を阻んでいます。これを解決するために,誘導結合型プラズマ(ICP)を応用したICPスラスタが提案されています。ICPスラスタでは,ノズル上流部に巻かれている誘導コイルに高周波電流を印加し,電極と非接触でプラズマを生成します。その後,超音速ノズルによってプラズマを気体力学的に加速させることで推力を生み出します。これまでに我々の研究室では人工衛星に搭載されたアルゴンガスなどの推進剤ガスを使用することを想定したICPスラスタを対象に実験および電磁流体解析を行ってきました。現在は,地球や火星の超低軌道における大気吸込式ICPスラスタの実現可能性を明らかにするために,数値シミュレーションを用いた研究を進めています。

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